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「あなたの王国が来ますように」

「あなたの王国が来ますように」

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「あなたの王国が来ますように」

1 もし神の王国がここに描写されているような状態を間もなくもたらすとすれば,神の王国はあなたにとって何を意味しますか。

この祈りの言葉ほど,しばしば繰り返されてきた言葉はありません。あなたも,あるいはこの祈りをささげてこられたかもしれません。わたしたちは確かに神の王国を必要としています。このさし絵に見られるような状態の下で暮らせたら,どんなにすばらしいことでしょう。これこそ神の王国がわたしたちに差し伸べている希望なのです。平和と一致が全世界にみなぎり,さまざまな人種はすべて純粋の愛のきずなで結ばれます。人々はみな生産的な仕事にいそしみ,その勤労の所産を楽しみます。大気を満たすのは自然の奏でる調べと,幸せな人間の歌声や笑う声です。全世界が一つの健康な人間社会となり,だれも年を取らず,病気になることもありません。動物たちと仲良く暮らす喜び,とりどりの花の芳香や,絵のように美しい風景,絶えず移り変わる季節などを楽しむ喜びもあります。こうしたことやさらに多くの事柄が,後ほど分かりますが,神の王国到来後のこの地球に約束されているのです。

2,3 近年におけるどんな変化は,神の王国の必要を痛感させますか。

2 しかし,現状はそれとはほど遠いものです。なぜなら,わたしたちは今,聖書が言う『対処しにくい』時代を通過しつつあるからです。(テモテ第二 3:1)この危機の時代があなたの生活にどんな影響を及ぼしているかは,あなたご自身がよくご存じです。読者の中にも,今世紀に生じた戦争や他の暴力行為で愛する人を亡くされた方が少なくないに違いありません。にもかかわらず諸国家は,かつてない熾烈な軍備競争を行なっており,すでに全人類の破滅をもたらすに十二分の武器を蓄えています。

3 家庭にごく近いところで生じる他の問題も影響してきます。抱きつき強盗,殺人,婦女暴行などが激増し,多くの人は通りを歩くことにさえ危険を感じます。また離婚,欠損家族,青少年犯罪などについても,以前よりよく耳にするようになっていないでしょうか。それに今は性行為や麻薬の常用を大目に見る時代ですから,子供を学校に入れることを心配する親も少なくありません。これらの問題がまだ表面化していない地域または国に住んでいる人たちは,本当にありがたく思わなくてはなりません。

4,5 (イ)ほかにどんな問題がわたしたちに影響を及ぼしていますか。(ロ)世界のどんな傾向は『神の王国の到来』が緊急に必要であることを示していますか。

4 最近は食事を作るのにどれくらいの費用がかかりますか。自動車を走らせるのにどれほどの費用がいりますか。食糧や燃料の価格の急騰で,不安定な世界情勢は将来に無気味な影を投げかけています。世界はいったいどこへ向かっているのでしょうか。1980年8月4日号のUS・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌の一記事は,この危機の重大性を強調し,次のように述べています。「思いきった新しい措置が取られなければ,今から20年後の世界は,幾十億もの貧しい人々が,高価で乏しい資源を奪い合う,不快極まる,不安定な惑星となり果てるだろう。3年にわたる調査を完了した大統領委員会は,7月24日,このように警告した」。西暦2000年までには世界人口は63億に達し,インフレを別にしても食糧の値段は2倍になり,砂漠は拡大し,森林は姿を消し,世界の石油の少なくとも半分は使い果たされるということも,この調査で分かりました。それも,現体制がそれだけ長く生き延びればの話です。

5 この危機に対し,個々の国は,いや国際連合さえも,何をなし得たでしょうか。今までのところ,ほとんど何もできないでいます。以上のことはすべて,わたしたちが神の王国をいかに緊急に必要としているかを物語るものです。

その王国とは何か

6 もし神の王国が人々の心の中にだけあるものであれば,わたしたちは必ず失望することになります。それはなぜですか。

6 王国とは,信ずる人々の心の中に中心を置くある状態に過ぎないものでしょうか。言い換えれば,十分の数の人々がキリスト教に改宗すれば,神の王国は来るのでしょうか。一部の人は,ジェームズ王欽定訳すなわち欽定訳聖書(英語)のルカ 17章21節にある,「神の王国はあなたがたのうちにある」という言葉を指摘して,そのように論じてきました。しかし,もし彼らの結論が正しいとすれば,神の王国はますます遠ざかっていることになります。なぜでしょうか。今日の世界人口に対する自称クリスチャンの割合は25%足らずで,しかもその数は減少しつつあるからです。また,教会の中へはめったに入らない教会員が幾億もいるのです。

7,8 聖書を調べることはルカ 17章21節の真の意味を理解するのにどのように役立ちますか。

7 次のことも考えてみてください。イエスは,「神の王国はあなたがたのうちにあります」と言われた時,だれに向かって話しておられたでしょうか。預言者イザヤが述べた,「その心はわたしから遠く離れている」という神の言葉をイエスは偽善的なパリサイ人に適用されました。(マタイ 15:1,8,欽定訳。イザヤ 29:13)そのようなかたくなな心に,どうして王国が入り得たでしょうか。ではイエスの言葉にはどんな意味がありますか。それを理解する手がかりとなるのは,ジェームズ王欽定訳の,欄外に異なった読み方が載っている版です。欄外のその別の読み方は,「神の王国はあなたがたの間にある」ですが,カトリックのエルサレム聖書,新英訳聖書など多くの聖書翻訳もそのようになっています。

8 ですからイエスはここで,指命された王であるご自身が彼らの間にいると言っておられたのです。イエスは真の人間として彼らの真ん中に実際におられました。このことから,神の王国も,その王が実際の人物であるのと同じように実際の王国,実際の政府であることが十分納得できるはずです。

今日の実情

9,10 真の王国とは何ですか。その王国は臣民にどんな益をもたらすことができますか。

9 今日でもこの地上にわずかながら王国が残っています。ノルウェー,イギリス,ヨルダン,ネパールなどがそれに含まれますが,それらの国は実際の政府です。それらの国には一人の王(もしくは女王)が存在します。また国会,議会,あるいは他の行政機関として働き,王と共に支配する人々がいます。この比較的に小さな支配グループの下で,民衆は日々の生活を営んでいます。彼らはその王国の臣民です。

10 王および王を補佐する支配者たちが民の福祉を深く心に留めているなら,王国は多大の益を民に与えることができます。昔のソロモンの王国がそうでした。当時,民は「海辺にある砂粒のように多くて,食べたり飲んだりして喜んで」いました。―列王上 4:20; 10:1-9 *

11 神の王国はどんな点で地上の王国に似ていますか。

11 神の王国が天から統治するという事実によってその現実性は少しでも薄れるでしょうか。そのようなことはありません。第一に,神の王国は生きている非常に活動的な王を有しています。その王とは神ご自身が任命した主イエス・キリストのことで,聖書はイエスについて,「諸国民は彼に希望をおくであろう」と述べています。(ローマ 15:12)地上にある政府と同じく,天の王国にも複合の統治機関があります。聖書の示すところによると,この統治機関は限られた数の仲間の王たちによって構成されます。その王たちはこの地上で神への忠節を証明した男女です。彼らに対してイエスは,「恐れてはなりません,小さな群れよ。あなたがたの父は,あなたがたに王国を与えることをよしとされたからです」と言われました。(ルカ 12:32。啓示 5:9,10; 20:4)その王国は天的権威を有します。王国政府は天という有利な位置から,無線やレーザー光線よりもはるかに強力な手段を用いて,地上のどの場所にでも命令を発することができます。

12,13 神の王国にはどんな(イ)おきて,(ロ)教育制度,(ハ)保健計画がありますか。

12 おきてについてはどうでしょうか。むろん,神の王国はおきてによって,それも神が民の益を図ってお作りになった最も優れたおきてによって運営されます。それらのおきては聖書に記されています。(申命 6:4-9。マルコ 12:28-31)王国には教育制度はあるのでしょうか。もちろんあります。その教育計画は現在すでにあらゆる国民,民族,言語の中の誠実な人々に対し実施されていて,王国の義の統治下で人々にとこしえの命を得させるための助けとなっています。どの国に住んでいる人でも,個人的にその教えを得ることができます。―マタイ 24:14。啓示 7:9,10。イザヤ 54:13

13 王国には保健計画がありますか。あらゆる保健計画の中でも最も実際的なもの,つまり主イエス・キリストの贖いの犠牲に基づく保健計画があります。この計画によって人間から病気と肉体的な弱さがすっかり取り除かれるので,人間は完全な健康体となり,永遠の命を得るでしょう。(イザヤ 25:8。ヨハネ 10:10)地上におられたときイエスは多くの奇跡を行なって,将来ご自身が,病人をいやし,盲人を見えるようにし,足なえをいやし,死者をさえ生き返らせる権威と力をお持ちになることを例示されました。(ルカ 7:20-23)王国のこの計画はまだ将来に属するものとはいえ,今日この計画について学んでいる人々は,清い道徳的な生活を送ることも学んでおり,現在すでに輝かしい霊的健康を取り戻しつつあります。彼らの持つ希望は現実のものなのです。―イザヤ 65:14。ローマ 10:11

14 地上におられた時にイエスは特にどんな事をお教えになりましたか。

14 イエスは地上の人間であったとき,神の王国について多くの事柄をお教えになりました。事実,神の王国が支配するときの生活についての予備知識をお与えになりました。(ルカ 4:43。マタイ 12:22-28)イエスは神について弟子たちにお教えになりました。そのために弟子たちは,やさしい父と息子の関係で神に近付くことができました。イエスは,わたしたちが生活の中で遭遇するさまざまな状況にうまく対処できるように,弟子たちに健全な助言をお与えになりました。―ヨハネ 1:18; 14:6

真の幸福の源

15 イエスの時代の人々が今日のわたしたちと同じように慰めを必要としていたのはなぜですか。

15 『神の王国が来ますように』という祈りは山上の垂訓の一部です。ガリラヤの海を見下ろすある丘の中腹で,イエスはこれを語られました。その話を聴いていたのは,イエスがお選びになった弟子たちと他の大勢の人々でした。彼らは利己的な者たちに「痛めつけられ,ほうり出されて」いました。(マタイ 9:36)イエスが話されたことは,それを聴く者たちに慰めをもたらしました。今日のわたしたちにとっても,イエスの言葉は同じように慰めになります。

16 真の幸福を見いだす者はだれですか。どのようにそれを見いだしますか。

16 イエスは真の幸福の源を指摘することから話をお始めになりました。真の幸福は物質の富や娯楽に,スリルや興奮を求めることにあるのでしょうか。そうではありません。なぜならイエスは霊的な事柄を強調されたからです。「霊的な必要を自覚している」人や「義に飢え渇いている」人たちは,神の王国に関連して永続的な幸福を見いだすことを,イエスはお示しになりました。(マタイ 5:3,6。ルカ 8:1,4-15)あなたはそのような霊的関心を培っておられますか。

17,18 (イ)神の是認を得るには何をしなければなりませんか。(ロ)マタイ 6章26-33節にあるイエスの保証の言葉をあなたはどう感じますか。

17 話の中でイエスは,神の是認を得るには天におられるわたしたちの父に見倣う者とならねばならないことを明示されました。わたしたちは天の父の属性を反映し,その規準に従って身を処して行かなければならないのです。(マタイ 5:43-48。エフェソス 5:1,2)神に喜ばれるには,わたしたちの崇拝は週に一,二回行なう単なる形式的なものであってはならないのです。日常生活に反映し,仲間の人間に対する愛のこもった関心となって表われる,生きた,活動的な崇拝でなければならないのです。

18 しかし,もし霊的価値観を生活の中で第一にすれば,わたしたちは,貪欲で自己中心的な今日の社会では,困窮してしまうのではないでしょうか。決してそのようなことはありません。『神の王国と神の義を第一に求める』なら,ほかの必要なものはみなこれに加えて与えられます。イエスはこのことを,マタイ 6章26-33節で,見事な方法で説明しておられます。ぜひお読みください。

19,20 (イ)神がわたしたちの崇拝をどうご覧になるかを知るのはなぜ大切ですか。(ロ)どうすることは,生活の中で神の王国を特に重視するのに役立ちますか。(ハ)「主の祈り」を復習するのはなぜ有益ですか。

19 ではどのようにして『王国を第一に求める』のでしょうか。『自分が選んだ教会に行けば』,神の祝福を必ず受けるという意味でしょうか。それとも,神がわたしたちのために選んでくださる崇拝の仕方を知ることに努める必要があるのでしょうか。この点についてイエスが言われたことに注目してください。「わたしに向かって,『主よ,主よ』と言う者がみな天の王国に入るのではなく,天におられるわたしの父のご意志を行なう者が入るのです」。『イエスの名において預言し,イエスの名において強力な業を行なった』と主張する者たちは,神の見地からすれば実際には「不法を働く者たち」である,とイエスははっきり言われました。(マタイ 7:21-23。7:13,14も参照。)わたしたちの崇拝を神がどのようにご覧になるかを確かに知るには,どうすればよいでしょうか。その唯一の方法は,神の言葉である聖書の内容に精通することです。

20 聖書をよく調べるなら,生活の中で,神の王国をそれにふさわしく,しかも自分個人の境遇に合った方法で特に重視するのに役立ちます。また人生観を新たにし,何が最も重要な事柄であるかを認識する助けになります。それで次に,イエスの山上の垂訓中の「主の祈り」として知られている部分を考えてみましょう。(マタイ 6:9-13)この模範的な祈りを復習すれば,真の幸福を望む者に神が求めておられることを,全体的にしっかりと把握するのに役立ちます。また,イエス・キリストの手中にある神の王国によって神のみ名を神聖なものとすること,これが聖書の感動的な主題であることも分かります。

[脚注]

^ 10節 本書中に一部分または全文が引用されている聖句は,特に表示のある場合を除き,ヘブライ語部分については「新世界訳聖書」の1971年英語版から,ギリシャ語部分については1973年日本語版からの引用です。

[研究用の質問]

[7ページの囲み記事]

人類は神の王国を必要とするか

「もし1メガトンの核爆弾がニューヨーク市の上空で爆発したら,恐らく225万人が即死し,360万人が重傷を負うだろう。……医学者と原子物理学者からなる一グループは昨日この点で意見の一致を見た。……世界は今世紀が終わらぬうちにそのような戦争を経験し,そのために人間は生き続けることが不可能になるだろう,と彼らは考えている」― 1980年9月27日付,ニューヨーク・タイムズ紙

[11ページの囲み記事]

神の王国の現実性

王: 1,000年間支配する権利を持つイエス。

天における共同支配者: 忠実な人間の中から神によって選ばれた者たち。

その領域: 世界的パラダイスが復興するこの地球。

忠節な臣民: 復活した人々を含む何十億という人。

法律: 神の義に立脚した王たる愛の律法。

教育計画: 今幸福な生活を送り,パラダイスの地では永遠の命を得られるよう,あらゆる人種の人々を援助する。

[4,5ページ,全面図版]