内容へ

目次へ

 その​信仰​に​倣う | ヨセフ

「この夢についてどうぞ聴いてください」

「この夢についてどうぞ聴いてください」

ヨセフ​は,痛切​な​思い​で​東​の​方​を​眺め​ながら,『今​この​隊商​の​列​から​抜け出し​て​逃げる​こと​が​でき​たら​いい​の​に』と​考え​まし​た。あの​丘​の​向こう​の,それ​ほど​遠く​ない​ヘブロン​に,自分​の​家​が​ある​の​です。夕方​の​今頃,父​ヤコブ​は,愛する​息子​の​身​に​何​が​起き​た​か​も​知ら​ず​に,くつろい​で​いる​こと​でしょ​う。しかし​今​は,父​の​もと​に​戻れ​ませ​ん。ひょっとしたら,年老い​た​愛する​父親​の​顔​を​もう​見る​こと​は​でき​ない​か​も​しれ​ませ​ん。貿易​商​たち​は​ラクダ​を​急がせ​ながら,昔​から​ある​その​道​を​南​へ​と​進み,ヨセフ​から​目​を​離し​ませ​ん。ヨセフ​を​買い取っ​た​の​ですから,逃がし​たり​は​し​ませ​ん。彼ら​に​とっ​て​この​若者​は,芳香​性​の​樹脂​や​油​を​詰め​た​貴重​な​積み荷​の​よう​な​もの,つまり​遠方​の​エジプト​で​もうける​ため​の​価値​の​高い​商品​な​の​です。

ヨセフ​は​17​歳​を​過ぎ​て​幾​年​も​たっ​て​は​い​なかっ​た,と​考え​られ​ます。思い描い​て​み​て​ください。ヨセフ​は,“大海”の​かなた​に​太陽​が​沈ん​で​ゆく​西​の​空​を​横目​で​見​ながら,自分​の​世界​が​どの​よう​に​崩れ去っ​た​か​を​思い返し​ます。兄​たち​から​殺さ​れ​そう​に​なり,奴隷​と​し​て​売り飛ばさ​れる​と​は,なんと​いう​こと​でしょ​う。必死​に​涙​を​こらえ​ます。自分​が​これ​から​どう​なる​の​か,全く​分かり​ませ​ん。

ヨセフ​は​自由​を​失っ​た​が,信仰​は​失わ​なかっ​た

ヨセフ​が​その​よう​な​窮境​に​陥っ​た​の​は,どうして​でしょ​う​か。わたしたち​は,家族​から​ひどい​仕打ち​を​受け​て​退け​られ​た​若い​ヨセフ​の​信仰​から,どんな​こと​を​学べる​でしょ​う​か。

家族​内​の​複雑​な​事情

ヨセフ​は​大​家族​の​中​で​育ち​まし​た。もっとも,その​家族​は​幸福​で​は​なく,一致​し​て​は​い​ませ​ん​でし​た。ヤコブ​の​家族​に​関する​聖書​の​記述​は,一夫多妻​の​望ましく​ない​面​を​赤裸々​に​示し​て​い​ます。神​は​ご自分​の​民​の​間​に,み子​イエス​が​本来​の​一夫一婦​と​いう​規準​を​回復​さ​せる​時​まで,一夫多妻​と​いう​根深い​慣習​を​容認​さ​れ​まし​た。(マタイ 19:4‐6)ヤコブ​は,妻​の​レア​と​ラケル​および​それぞれ​の​はしため​ジルパ​と​ビルハ​と​いう​女性​4​人​に​よっ​て,子ども​を​少なく​と​も​14​人​もうけ​まし​た。最初​から,美しい​ラケル​を​愛し​て​い​て,ラケル​の​姉​レア​に​は​その​よう​な​愛着​を​抱い​て​い​ませ​ん​でし​た。だまさ​れ​て​結婚​し​た​から​です。ラケル​と​レア​の​間​に​は​苦々しい​対抗​心​が​いつ​まで​も​続き,家族​内​の​子ども​たち​も​その​嫉妬​心​を​受け継ぎ​まし​た。―創世記 29:16‐35; 30:1,8,19,20; 37:35

ラケル​に​は​ずっ​と​子ども​が​でき​なかっ​た​の​で,年老い​た​ ヤコブ​は,やっと​生ま​れ​た​ヨセフ​を​特別​扱いし​まし​た。例えば,家族​が​危険​を​感じ​ながら,ヤコブ​の​兄​で​殺意​を​抱く​エサウ​に​会い​に​行く​際,ラケル​と​幼い​ヨセフ​を​家族​全員​の​一番​後ろ​の​安全​な​所​に​置き​まし​た。その​不穏​な​日​の​事​は,ヨセフ​の​脳裏​に​消え​ない​印象​と​し​て​残っ​た​はず​です。その​朝​ヨセフ​が​どう​感じ​た​か,想像​し​て​み​て​ください。父​が,年老い​て​は​い​て​も​精力​的​な​人​な​の​に,足​を​引きずっ​て​い​ます。ヨセフ​は​目​を​丸く​し​て,どう​し​た​の​だろ​う​と​思っ​た​こと​でしょ​う。そして,理由​を​知っ​て​驚い​た​に​違いあり​ませ​ん。なんと​父​は,前​の​晩,神​から​遣わさ​れ​た​ひとり​の​強力​な​使い​と​格闘​し​た​の​です。それ​は,父​が​エホバ​神​から​の​祝福​を​願っ​た​から​です。そして,報い​と​し​て​イスラエル​と​いう​新た​な​名前​を​与え​られ​まし​た。1​つ​の​国民​全体​が​その​名​で​呼ば​れる​こと​に​なる​の​です。(創世記 32:22‐31)やがて​ヨセフ​は,イスラエル​の​子​ら​が​国民​の​諸​部族​の​父​と​なる,と​いう​こと​を​知り​まし​た。

その​後,子ども​の​ヨセフ​自身,最愛​の​人​を​あまりに​も​あっけなく​失う​と​いう​悲劇​に​直面​し​まし​た。母​が​弟​ベニヤミン​を​出産​する​際​に​亡くなっ​た​の​です。父​も,その​死​を​深く​嘆き悲しみ​まし​た。きっと​ヤコブ​は,優しく​ヨセフ​の​涙​を​ぬぐい​ながら,かつて祖父​アブラハムに​慰め​と​なっ​た​の​と​同じ​希望​を​語っ​て,ヨセフ​を​慰め​た​こと​でしょ​う。ヨセフ​は,エホバ​が​いつ​の​日​か​母​を​生き返ら​せ​て​くださる​と​聞い​て,本当​に​うれしかっ​た​に​違いあり​ませ​ん。そして,寛大​な「生き​て​いる​者​の​神」に​対する​愛​を​深め​た​こと​でしょ​う。(ルカ 20:38。ヘブライ 11:17‐19)ヤコブ​は,妻​ラケル​を​亡くし​た​後,ラケル​の​生ん​だ​息子​二​人​に,いつも​優しい​気持ち​を​抱き​まし​た。―創世記 35:18‐20; 37:3; 44:27‐29

その​よう​な​特別​扱い​を​受ける​と,わがまま​に​なる​子​や​手​に​負え​なく​なる​子​も​少なく​あり​ませ​ん​が,ヨセフ​は​親​の​いろいろ​な​良い​特質​から​学ん​で,強い​信仰​を​培い,正邪​に​関する​鋭い​感覚​も​身​に​つけ​まし​た。17​歳​の​時​の​こと,羊飼い​と​し​て​兄​たち​の​手助け​を​し​て​いる​間​に,彼ら​の​悪行​を​目​に​し​まし​た。その​問題​を,兄​たち​に​好か​れ​よう​と​し​て,だれ​に​も​話さ​ない​で​おこ​う​と​思っ​た​か​も​しれ​ませ​ん。そう​だ​と​し​て​も,ヨセフ​は​正しい​こと​を​し​まし​た。問題​を​父親​に​報告​し​た​の​です。(創世記 37:2)ヤコブ​は,その​よう​な​勇気​ある​行動​を​見​て,この​愛する​息子​を​いよいよ​高く​評価​する​よう​に​なっ​た​こと​でしょ​う。クリスチャン​の​若者​が​思い巡らす​と​よい,なんと​立派​な​模範​でしょ​う。他​の​人​の,例えば​実​の​兄弟​姉妹​や​友達​の​重大​な​罪​を​覆い隠し​たく​なっ​た​時​に​は,ヨセフ​に​倣っ​て,悪行​者​を​助ける​こと​の​できる​人​たち​に​問題​を​きちんと​知らせる​の​が​賢明​です。―レビ​記 5:1

わたしたち​は,ヨセフ​の​家庭​環境​から​も​教訓​を​学び取る​こと​が​でき​ます。今日​の​真​の​クリスチャン​の​間​に​は​一夫多妻​と​いう​慣習​は​あり​ませ​ん​が,血​の​つながり​の​ない​親​と​子,兄弟​や​姉妹​など​から​成る​ステップファミリー​も​少なく​あり​ませ​ん。だれ​も​が​ヤコブ​の​家族​から​得​られる​教訓​ は,えこひいき​する​と​家族​の​一致​が​損なわ​れる,と​いう​こと​です。ステップファミリー​の​親​で​賢明​な​人​は,実​の​子​や​継子​に,どの​子​も​愛さ​れ​て​い​て,それぞれ​独自​の​賜物​が​あり,みんな​が​家族​の​幸福​に​寄与​できる,と​いう​こと​を​確信​さ​せる​よう,できる​限り​の​こと​を​し​ます。―ローマ 2:11

嫉妬​心​が​根​を​下ろす

ヤコブ​は,ヨセフ​が​忠実​で​義​に​かなっ​て​い​た​ゆえ​に,愛し​た

ヨセフ​が​勇敢​に​正しい​こと​を​行なっ​て​い​た​から​でしょ​う,ヤコブ​は​ヨセフ​に​誉れ​を​与え​まし​た。ヨセフ​の​ため​に​特別​の​衣​を​作ら​せ​た​の​です。(創世記 37:3)袖​が​手首​まで​あり​裾​が​足首​まで​ある​長い​エレガント​な​衣​だっ​た,と​思わ​れ​ます。きっと​高貴​な​人​や​王子​が​着る​よう​な​服​だっ​た​の​でしょ​う。

ヤコブ​が​そう​し​た​の​は​善かれ​と​思っ​て​の​こと​で​あり,ヨセフ​は​父​の​心遣い​や​愛情​に​感激​し​た​に​違いあり​ませ​ん。しかし,その​衣​は​非常​に​厄介​な​問題​を​もたらす​こと​に​なり​まし​た。思い起こし​たい​の​は,ヨセフ​が​羊飼い​の​仕事​を​し​て​い​た​こと​です。それ​は,きつい​肉体​労働​です。立派​な​衣​を​着​て,草むら​を​歩き,岩場​を​登り,迷っ​た​子羊​を​いばら​の​茂み​から​解き放と​う​と​する​なら,どう​でしょ​う​か。さらに,ヤコブ​の​特別​な​好意​の​しるし​で​ある​その​衣​を​着​て​いる​なら,兄​たち​と​の​関係​は​どう​なる​でしょ​う​か。

聖書​は​こう​答え​て​い​ます。「父​が​すべて​の​兄弟​に​まさっ​て​彼​を​愛し​て​いる​の​を​知る​と,その​兄弟​たち​は​彼​を​憎む​よう​に​なり,彼​に​対し​て​穏やか​に​物​を​言う​こと​が​でき​なかっ​た」。 *創世記 37:4)ヨセフ​の​兄​たち​が​嫉妬​し​た​の​は​無理​も​ない​こと​だ​と​し​て​も,その​有害​な​感情​を​抑え​なかっ​た​の​は​賢明​な​こと​と​は​言え​ませ​ん。(箴言 14:30; 27:4)あなた​も,自分​より​ほか​の​人​が​注目​さ​れ​たり​誉れ​を​受け​たり​し​た​時,ねたましく​思っ​た​こと​が​あり​ます​か。ヨセフ​の​兄​たち​は,嫉妬​し​た​ため​に,後​で​深く​悔やむ​よう​な​こと​を​し​て​しまい​まし​た。その​事例​から​思い起こす​の​は,「歓ぶ​人​たち​と​共​に​歓(ぶ)」ほう​が​ずっ​と​賢明​で​ある​と​いう​こと​です。―ローマ 12:15

ヨセフ​は​きっと​兄​たち​の​敵意​を​感じ​て​い​た​こと​でしょ​う。では,兄​たち​が​近く​に​いる​時​に​は​自分​の​上等​の​衣​を​しまっ​て​おい​た​でしょ​う​か。もしか​し​たら,そう​し​よう​と​いう​気​に​なっ​た​か​も​しれ​ませ​ん。しかし,思い出し​て​ください,ヤコブ​は​その​衣​を​ヨセフ​に​好意​や​愛​の​しるし​と​し​て​与え​た​の​です。ヨセフ​は,父​の​信頼​に​こたえ​たい​と​思っ​て​い​た​の​で,忠節​に​その​衣​を​着​て​い​まし​た。その​模範​は,わたしたち​に​とっ​て​有益​です。天​の​父​は,決して​不​公平​な​方​で​は​あり​ませ​ん​が,人類​の​世​から​ご自分​の​忠節​な​僕​たち​を​選ん​で,その​僕​たち​に​好意​を​お示し​に​なる​こと​も​確か​に​あり​ます。また,選び出し​た​人​たち​に​は,現在​の​腐敗​し​た​不​道徳​な​世​と​は​異なっ​た​者​と​し​て​際立つ​こと​を​求め​て​おら​れ​ます。真​の​クリスチャン​の​行ない​は,ヨセフ​の​特別​の​衣​と​同じ​よう​に,当人​を​周り​の​人​たち​と​は​異なら​せる​もの​と​なっ​て,ねたみ​や​敵意​を​誘発​する​場合​も​あり​ます。(ペテロ​ 第​一 4:4)では,クリスチャン​は​自分​が​現に​神​の​僕​で​ある​こと​を​隠す​べき​でしょ​う​か。いいえ。それ​は,ヨセフ​が​自分​の​衣​を​隠す​べき​で​なかっ​た​の​と​同じ​です。―ルカ 11:33

ヨセフ​の​見​た​夢

その​後​しばらく​し​て​ヨセフ​は,普通​で​は​ない​2​つ​の​夢​を​見​まし​た。最初​の​夢​の​中​で,自分​と​兄​たち​が​それぞれ​穀物​を​束ね​て​いる​と,自分​の​束​が​まっすぐ​に​立ち,兄​たち​の​束​が​それ​を​取り囲ん​で​身​を​かがめ​まし​た。2​番​目​の​夢​の​中​で​は,太陽​と​月​と​11​の​星​が​ヨセフ​に​身​を​かがめ​て​い​まし​た。(創世記 37:6,7,9)ヨセフ​は,それら​鮮明​で​奇妙​な​夢​に​つい​て,どう​す​べき​でしょ​う​か。

その​夢​は,エホバ​神​から​の​もの​でし​た。預言​的​な​もの​で​あり,神​は​ヨセフ​に,その​夢​に​含ま​れ​て​いる​メッセージ​を​伝え​させ​よう​と​され​た​の​です。ヨセフ​が​す​べき​こと​は,ある​意味​で,後代​の​預言​者​すべて​が,正道​から​それ​た​民​に​神​から​の​メッセージ​や​裁き​を​知らせ​た​の​と​同じ​こと​です。

ヨセフ​は​兄​たち​に,気​を​遣い​ながら,「わたし​の​見​た​この​夢​に​つい​て​どうぞ​聴い​て​ください」と​言い​まし​た。兄​たち​は,聞い​た​夢​の​意味​を​理解​し​まし​た​が,好ましく​思わず,「お前​は​きっと​わたしたち​の​王​に​なる​と​言う​の​か。きっと​わたしたち​を​支配​する​よう​に​なる​と​でも​言う​の​か」と​迫り​まし​た。記述​に​は,「こう​し​て​彼ら​は​その​夢​と​言葉​の​ゆえに​ますます​彼​を​憎む​よう​に​なっ​た」と​あり​ます。ヨセフ​は​2​番​目​の​夢​を,兄​たち​だけ​で​なく​父​に​も​話​し​まし​た​が,反応​は,最初​の​時​と​変わり​ませ​ん​でし​た。こう​記さ​れ​て​い​ます。「父​は​彼​を​叱っ​て​言っ​た,『お前​の​見​た​この​夢​は​どういう​こと​な​の​か。わたし​が,そして​お前​の​母​や​兄弟​たち​が​きっと​やっ​て​来​て,お前​に​対し​て​地​に​身​を​かがめる​と​言う​の​か』」。と​は​いえ,ヤコブ​は​考え​続け​まし​た。ひょっとしたら,エホバ​が​ヨセフ​に​後々​の​事​を​知らせ​て​おら​れる​の​で​は​ない​でしょ​う​か。―創世記 37:6,8,10,11

ヨセフ​は,嫌がら​れる​預言​的​な​メッセージ,迫害​さ​れる​結果​に​も​つながる​音信​を​伝え​まし​た。エホバ​の​僕​たち​の​うち,そう​する​よう​求め​られ​た​の​は,ヨセフ​が​最初​で​も​最後​で​も​あり​ませ​ん。その​よう​な​メッセージ​を​伝え​た​最も​偉大​な​人​は​イエス​で​あり,弟子​たち​に,「彼ら​が​わたし​を​迫害​し​た​の​で​あれ​ば,あなた方​を​も​迫害​する​でしょ​う」と​述べ​まし​た。(ヨハネ 15:20)どんな​年齢​層​の​クリスチャン​も,若い​ヨセフ​の​信仰​と​勇気​から​多く​の​こと​を​学べ​ます。

憎しみ​が​積もり積もっ​て

その​後​しばらく​し​て,ヤコブ​は​若い​ヨセフ​を​遠方​まで​使い​に​出し​まし​た。年上​の​息子​たち​が​北方​の,しばらく​前​に​人々​から​恨み​を​買う​よう​な​こと​を​し​た​シェケム​の​近く​で​羊​の​群れ​を​放牧​し​て​い​た​の​で,ヤコブ​が​息子​たち​の​こと​を​心配​し​た​の​も​当然​です。彼ら​の​無事​を​確かめ​よう​と​し​て​ヨセフ​を​遣わし​た​の​は​その​ため​です。ヨセフ​の​気持ち​は​どう​だっ​た​でしょ​う​か。兄​たち​から​は​ひどく​憎ま​れ​て​い​ます。父​の​代弁​者​と​し​て​行け​ば,どう​思わ​れる​でしょ​う​か。それでも,ヨセフ​は​従順​に​出かけ​て​行き​まし​た。―創世記 34:25‐30; 37:12‐14

かなり​の​旅​です。徒歩​で​4​日​か​5​日​は​かかり​ます。シェケム​は​ヘブロン​から​北​へ​約​80​㌔​離れ​て​い​ます。ヨセフ​は,シェケム​に​着き​まし​た​が,兄​たち​が​北​へ​さらに​22​㌔​ほど​先​の​ドタン​へ​移動​し​た​こと​を​知り​まし​た。ヨセフ​が​ようやく​ドタン​に​近づい​た​時,兄​たち​は​遠く​から​ヨセフ​を​見かけ,たちまち​憎しみ​を​かきたて​られ​まし​た。こう​記述​さ​れ​て​い​ます。彼ら​は「互い​に​言っ​た,『見ろ,あの​夢見る​者​が​やっ​て​来る​ぞ。さあ​今,あいつ​を​殺し​て​どこ​か​の​水坑​に​投げ込ん​で​や​ろう。そして,たち​の​悪い​野獣​が​彼​を​むさぼり食っ​た,と​言う​の​だ。こう​し​て,あいつ​の​夢​が​どう​なる​か​を​見​て​や​ろう​で​は​ない​か』」。しかし​ルベン​は,弟​たち​を​説き伏せ​て,ヨセフ​を​生かし​た​まま​水坑​に​投げ込む​だけ​に​させ​ます。後​で​ヨセフ​を​救い出せる​だろ​う,と​考え​た​の​です。―創世記 37:19‐22

ヨセフ​は,そう​と​は​知ら​ず​に,兄​たち​に​近づい​て​行き​まし​た。穏やか​に​顔​を​合わせる​こと​を​望ん​で​い​た​に​違いあり​ませ​ん。ところが,兄​たち​は​襲いかかっ​て​き​まし​た。特別​の​衣​を​荒々しく​はぎ取ら​れ,干上がっ​た​水坑​へ​引い​て​行か​れ,その​中​に​投げ込ま​れ​まし​た。突き落とさ​れ​た​の​です。ヨセフ​は,ショック​から​立ち直る​と,必死​に​よじ登ろ​う​と​し​ます​が,自力​で​は​でき​ませ​ん​でし​た。兄​たち​の​声​が​遠ざかっ​て​ゆく​中,坑​の​底​から​空​を​見上げ​て,兄​たち​に​叫び,哀願​し​まし​た​が,無視​さ​れ​まし​た。兄​たち​は​冷酷​に​も,近く​で​食事​を​し​ます。そして,ルベン​が​そこ​を​離れ​て​い​た​間​ に,またも​ヨセフ​を​殺そ​う​と​考え​ます。しかし​ユダ​は,そう​する​代わり​に,やっ​て​来る​商人​たち​に​ヨセフ​を​売り渡そ​う,と​説得​し​まし​た。ドタン​は​エジプト​へ​の​通商​路​の​近く​に​あり,間​も​なく​イシュマエル​人​と​ミディアン​人​の​隊商​が​通りかかり​まし​た。その​企て​は,ルベン​が​戻っ​て​来る​前​に​実行​さ​れ​まし​た。自分​たち​の​弟​を​20​シェケル​で​奴隷​と​し​て​売り飛ばし​た​の​です。 *創世記 37:23‐28; 42:21

ヨセフ​は​正しい​こと​を​行ない​続け​た​が,兄​たち​から​は​憎ま​れ​た

では​ここ​で,冒頭​の​場面​に​戻り​ましょ​う。ヨセフ​は,エジプト​へ​の​道​を​南​へ​と​連れ​て​行か​れる​ところ​で,何​も​か​も​失っ​た​か​に​思え​まし​た。自分​の​家族​から​切り離さ​れ​て​しまっ​た​の​です。家族​の​こと​は​その​後​何​年​間​も​全く​分​から​なくなり​ます。ルベン​が​戻っ​て​ヨセフ​が​い​なく​なっ​て​いる​の​を​知り,苦悩​し​た​こと,ヤコブ​が​だまさ​れ​て,愛する​ヨセフ​が​死ん​だ​と​思い,嘆き悲しん​だ​こと,高齢​に​なっ​て​は​い​て​も​まだ​生き​て​い​た​祖父​イサク​の​こと,また​愛する​弟​ベニヤミン​の​こと​など,知る​由​も​あり​ませ​ん。ベニヤミン​の​こと​で​は​非常​に​寂しく​思い​ます。では,ヨセフ​は​すべて​を​失っ​て​しまっ​た​の​でしょ​う​か。―創世記 37:29‐35

ヨセフ​に​は​なおも,兄​たち​が​決して​取り去る​こと​の​でき​なかっ​た​もの​が​あり​まし​た。それ​は,信仰​です。ヨセフ​は​自分​の​神​エホバ​に​つい​て​多く​の​こと​を​知っ​て​おり,何​が​あっ​て​も​信仰​は​失い​ませ​ん​でし​た。親元​から​引き離さ​れ​て​も,捕らわれ​の​身​と​なっ​て​エジプト​まで​長い​旅​を​させ​られ​て​も,ポテパル​と​いう​名​の​富裕​な​エジプト​人​に​奴隷​と​し​て​売ら​れる​屈辱​を​受け​て​も,信仰​を​失わ​なかっ​た​の​です。(創世記 37:36)ヨセフ​の​信仰​と,神​の​そば​に​とどまろ​う​と​いう​その​決意​は,そう​し​た​辛苦​の​もと​で​強まる​ばかり​でし​た。今後​の​記事​の​中​で​は,ヨセフ​が​信仰​を​抱い​て​い​た​が​ゆえに,自分​の​神​エホバ​に​とっ​て,また​苦難​に​見舞わ​れ​た​愛する​家族​に​とっ​て,どの​よう​に​一層​有用​な​者​と​なっ​た​か​を​考え​ます。わたしたち​が​ヨセフ​の​信仰​に​倣う​の​は,なんと​賢明​な​こと​な​の​でしょ​う。

^ 15節 研究​者​たち​の​中​に​は,ヨセフ​の​兄​たち​は​父​が​ヨセフ​に​長子​の​権利​を​与える​つもり​で​贈り物​を​し​た​と​解釈​し​た​の​だろ​う,と​言う​人​も​い​ます。兄​たち​が​知っ​て​い​た​とおり,ヨセフ​は,ヤコブ​の​一番​愛し​た​妻,つまり​最初​に​結婚​し​よう​と​し​た​相手​の​初めて​の​子​でし​た。しかも,すでに​ヤコブ​の​長子​ルベン​は​父​の​そばめ​と​寝​て,父​を​辱め​た​ため,事実​上,長子​の​権​を​失っ​て​い​た​から​です。―創世記 35:22; 49:3,4

^ 25節 こう​し​た​細か​な​点​に​おい​て​さえ,聖書​の​記録​は​正確​です。同​時代​の​文書​は,エジプト​に​おける​奴隷​の​相場​が​20​シェケル​で​あっ​た​こと​を​明らか​に​し​て​い​ます。