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ストレス ― うまく対処するには
「わたしは自分が,回し車の中をひたすら走るハムスターのようだ,と感じました。1日16時間働くことが多く,週末もほとんど休みを取れませんでした。幼い娘の寝顔しか見られなくて腹立たしい気持ちになり,ストレスで病気になりかけていました」。―カリ,フィンランド。
カリと同じような経験をしている人は少なくありません。英国のメンタルヘルス慈善団体によれば,英国の勤労者5人に1人が,勤めていた期間中にストレスが原因で病気になった,と述べており,4人に1人はプレッシャーに対処できずに職場で泣いたことがある,と答えました。景気後退が生じた2009年には,1年間で抗うつ薬の処方せんの枚数がかつてないほど増加しました。
何がストレスとなりますか
金銭上の問題などからくる不安感
多くの責務
対人関係の問題
心の傷となっている経験
ストレスからどんな影響を受けますか
健康を害する
感情面で疲れ果てる
ぐっすり眠れない
うつ状態になる
人間関係が悪化する
ストレスにさらされると,体内の驚くべき機能が,つまり非常事態に対応するシステムが働きます。ホルモンが分泌されて,呼吸が速くなり,心拍数が増え,血圧が上がります。また,蓄えられていた血球やブドウ糖がどっと血液中に放出されます。こうした一連の反応により,体はストレス因子すなわちストレスとなる刺激に対処しようとします。ストレス因子がなくなれば体は普通の状態に戻るのですが,なくならなければ思い煩いや緊張が続いてしまいます。それは,回転速度が上がったままのエンジンに似ています。ですから,心身の健康を保つためには,ストレスに対処する方法を知ることが大切です。
ストレスにうまく対処する
ストレスは何でも有害,というわけではありません。アメリカ心理学会はこう述べています。「人がストレスによって受ける影響は,バイオリンが弦の張り具合によって受ける影響と似ている。弦が緩すぎると,音が鈍くなり,かすれた感じになるが,張りすぎると,音が鋭くなり,弦が切れてしまう。ストレスは命取りにもなれば良い刺激にもなる。要は,ストレスにどう対処するかである」。
考慮すべき点としてもう一つは,人それぞれ気質や健康状態が異なることです。ある人にとってストレスとなることが別の人にはそうでもない,というのはそのためです。ですから,通常の責務を果たすのにひどく緊張し,リラックスできなかったり時折の非常事態に対処できなかったりするなら,ストレスが強すぎる,と言えます。
慢性的なストレスを“解消”しようとして,酒や薬物,たばこなどに頼る人もいれば,食習慣が異常になる人や,テレビやコンピューターの前に座ったままになる人もいます。しかし,いつもそうしていたのでは,根底にある問題に取り組むことはできず,事態を悪化させてしまうだけです。では,どうすればストレスにうまく対処できるでしょうか。
生活上のストレスに聖書の実際的なアドバイスを当てはめて対処している人は少なくありません。では,役立つことが十分実証されてきた,聖書の知恵の言葉は,あなたにも益となるでしょうか。その点について,ストレスとなる場合の多い事柄を4つ取り上げて考えてみましょう。
1 不安感
不安を全く抱かない人はいません。聖書が述べているとおり,「時と予見しえない出来事とは[わたしたち]すべてに臨む」からです。(伝道の書 9:11)では,どうすれば不安感に対処できるでしょうか。次のようにしてみてください。
信頼できる家族や友人に話しましょう。研究によると,家族や友人からの支えが常にあれば,大抵はストレス性の障害を抱え込まないですみます。「真の友はどんな時にも愛しつづけるものであり,苦難のときのために生まれた兄弟」なのです。―箴言 17:17。
生じ得る最悪の事態ばかり考えないようにしましょう。そうするなら感情面で消耗してしまいます。恐れているような事柄は起きないかもしれません。それで聖書は,「次の日のことを決して思い煩ってはなりません。次の日には次の日の思い煩いがあるのです」と述べています。―マタイ 6:34。
祈りの力を経験してください。ペテロ第一 5章7節には,「自分の思い煩いをすべて神にゆだねなさい。神はあなた方を顧みてくださるからです」と述べられています。神は気遣いを示して,わたしたちに心の平安を与えてくださり,慰めと支えを誠実に求める人を「決して……見捨てない」と保証してくださっています。―ヘブライ 13:5。フィリピ 4:6,7。
2 多くの責務
通勤,仕事,勉強,子育て,年老いた親の世話といった激務を果たしていると,強いストレスにさらされ続ける場合があります。しかも,そうした務めのどれかをやめることは不可能かもしれません。(テモテ第一 5:8)では,どうすればよいでしょうか。
リラックスする時間や休息を取るようにしましょう。聖書にも,「一握りの憩いは,二握りの骨折りと風を追うことに勝る」と述べられています。―伝道の書 4:6。
優先すべきことを優先し,つつましい生活をするようにしましょう。(フィリピ 1:10)生活を簡素化する方法を考えてください。支出を減らしたり仕事時間を少なくしたりすることができるかもしれません。―ルカ 21:34,35。
冒頭で紹介したカリは,聖書を学んで自分の生活を見直しました。「わたしは自分が利己的な生き方をしていることに気づきました」と書いています。カリは,事業を売却し,自宅で過ごす時間を増やせる仕事に就きました。こう述べています。「生活水準は少し下がりましたが,わたしたち夫婦は,それまで絶えずさらされていたストレスから解放されて,家族や友人たちと一緒に過ごす時間を取れるようになりました。今後どんなビジネスチャンスがあっても,今得ているこの心の平安を手放したりはしません」。
3 対人関係の問題
他の人とのあつれきは,特に職場で生じると,大きなストレスとなり得ます。そのような問題を抱えている人には,できることが幾つかあります。
気に障ることをされても,穏やかさを保つようにしましょう。火に油を注ぐようなことをしてはなりません。箴言 15章1節には,「温和な答えは激しい怒りを遠ざけ,痛みを生じさせる言葉は怒りを引き起こす」と述べられています。
だれかとの間に不和が生じたなら,その人と二人だけで話し,敬意を示しつつ解決するように努めて,相手の尊厳を傷つけないようにしましょう。―マタイ 5:23‐25。
相手の気持ちや考えを洞察することに努めましょう。そうすれば,相手の身になって考えられるので,「怒りを遅くする」ことができます。(箴言 19:11)また,相手の視点から自分を見ることもできます。
許すようにしましょう。許すことは,美徳であるだけでなく,良薬ともなります。2001年に行なわれた研究報告によれば,「許せないと思う」と血圧や心拍数が「著しく上昇」するのに対し,快く許す態度を取るとストレスが軽減される,ということです。―コロサイ 3:13。
4 心の傷となっている経験
カンボジアに住む,ニアンという女性は,次から次へと悲劇に見舞われました。1974年に空港での爆発事件で負傷し,その翌年に息子と娘,母親,そして夫が亡くなりました。2000年には火事で自宅と他の財産を失い,3年後,再婚した夫が亡くなりました。当時ニアンは,死のうと思っていました。
「一握りの憩いは,二握りの骨折りと風を追うことに勝る」
しかしニアンは,対処する方法を見いだしました。聖書を調べて学んだ事柄から多くの益を得たので,他の人も同様の益にあずかれるよう今度は人助けに時間を用いたのです。この経験から思い起こされるのは,2008年に英国の研究者たちが行なった調査です。報告によれば,「ストレスの影響から立ち直る力」を得る方法の一つは,「自分を他の人に何らかの方法で与える」ことでした。これは,昔から聖書に記されていたアドバイスと同じです。―使徒 20:35。
ニアンは,明るい将来への確かな希望も得ました。やがては,人類を悩ませている問題すべてがなくなり,全地に「豊かな平和」が行き渡るのです。―詩編 72:7,8。
真の希望も,生活上の様々なストレスに対処するための知恵も,非常に価値があり,聖書中に見いだせます。すでに大勢の人がこの類のない傑出した本から益を受けてきました。あなたも益を受けることができます。