ルカ​に​よる​福音​書 22:1-71

22  さて,無酵母パンの祭り,いわゆる過ぎ越し+が近づいていた+  祭司長と律法学者たちは,イエスを除き去るうまい方法を探していた+。民を恐れていたのである+  また,12人の中に数えられ,イスカリオテと呼ばれるユダにサタンが入り込んだ+  ユダは出掛けていき,イエスを裏切って渡す方法について祭司長と神殿の指揮官たちと話し合った+  その人たちは喜び,銀を与えることで合意した+  ユダは承諾し,群衆がいない時にイエスを裏切って渡す良い機会をうかがうようになった。  無酵母パンの日になった。過ぎ越しの犠牲が捧げられなければならない日である+  そこでイエスはペテロとヨハネを遣わして言った。「行って,過ぎ越しの食事を用意しなさい+」。  2人は言った。「どこに用意したらいいでしょうか」。 10  イエスは言った。「町に入ると,水がめを運んでいる男の人に会います。付いていって,その人が入る家に入りなさい+ 11  そして,家主にこう言いなさい。『先生が,「弟子たちと過ぎ越しの食事ができる客室はどこでしょうか」と言っています』。 12  その人は整った大きな階上の部屋を見せてくれます。そこに用意しなさい」。 13  それで2人が出掛けると,イエスが話した通りになり,過ぎ越しの準備をした。 14  その時刻が来た時,イエスは使徒たちと食卓に着いた+ 15  イエスは言った。「私は苦しみを受ける前にぜひあなたたちと一緒にこの過ぎ越しの食事をしたい,と思っていました。 16  あなたたちに言いますが,神の王国で全てが実現するまで私は二度とそれを食べません」。 17  そして杯を受け取り,感謝の祈りをしてからこう言った。「これを取って,順番に回しなさい。 18  あなたたちに言いますが,今後,神の王国が来るまで私はブドウからできたものを二度と飲みません+」。 19  また,イエスはパンを取り+,感謝の祈りをしてから,それを割って渡し,こう言った。「これは,あなたたちのために与えられる+私の体を表しています+。このことを行っていき,私のことを思い起こし*なさい+」。 20  また,食事が済んでから,杯についても同じようにして,こう言った。「この杯は私の血による+新しい契約を表しています+。それはあなたたちのために注ぎ出されることになっています+ 21  でも見なさい。私を裏切る人の手が食卓で私の近くにあります+ 22  確かに,人の子は定められたところに従って進んでいきます+。しかし,人の子を裏切るその人には災いがあります+!」 23  使徒たちは,自分たちのうちいったい誰がそんなことを行おうとしているのか,論じ合い始めた+ 24  ところが,自分たちの中で誰が一番偉いのかについても激しい議論が起きた+ 25  しかしイエスはこう言った。「国々の王は威張り,権威を持つ人たちは善行者と呼ばれます+ 26  しかし,あなたたちはそうであってはなりません+。あなたたちの間で一番偉い人は一番若い人のように+,教え導く人は奉仕する人のようになりなさい+ 27  というのは,食事をして*いる人と給仕している人では,どちらが偉いですか。食事をして*いる人ではありませんか。しかし私は,あなたたちに仕える人です+ 28  とはいえ,あなたたちは私が試練+に遭っている間もずっと一緒にいました+ 29  それで私は,天の父が私と契約を結んだように,あなたたちと王国のための契約を結び+ 30  あなたたちが私の王国で私と一緒に食卓に着いて食べたり飲んだりし+,王座に座って+イスラエルの12部族を裁くようにします+ 31  シモン,シモン! サタンはあなたたちを渡すよう要求しました。小麦をふるいにかけるように試すためです+ 32  しかし私は,あなたの信仰が尽きないように祈願しました+。立ち直った後は,兄弟たちを力づけなさい+」。 33  ペテロは言った。「主よ,私はあなたと牢屋に入ることも死ぬことも覚悟しています+」。 34  しかしイエスは言った。「ペテロ,あなたに言います。今日おんどりが鳴くまでの間に,あなたは3度,私を知っていることを否定します+」。 35  またイエスは使徒たちに言った。「財布も食物袋もサンダルも持たせずに遣わした時+,何にも不足しなかったのではありませんか」。使徒たちは,「はい,何にも」と言った。 36  イエスは言った。「しかし今,財布がある人はそれを持ち,食物袋も同じようにしなさい。剣を持っていない人は,外衣を売ってそれを買いなさい。 37  というのは,書かれていること,すなわち『彼は不法な者たちと共に数えられた+』という言葉は,私に関して必ず成し遂げられるからです。これは私に関して実現しつつあります+」。 38  使徒たちは言った。「主よ,ご覧ください,ここに剣が2本あります」。イエスは言った。「それで十分です」。 39  イエスはそこを出て,いつものようにオリーブ山に行った。弟子たちも後に従った+ 40  その場所に着くと,イエスは弟子たちに言った。「誘惑に負けないように祈っていなさい+」。 41  そして,石を投げれば届くほどの所まで離れ,膝をかがめて祈り始め, 42  こう言った。「父よ,あなたが望まれるようでしたら,この杯を私から取り除いてください。とはいえ,私の望むことではなく,あなたの望まれることがなされますように+」。 43  その時,天使が現れてイエスを力づけた+ 44  しかしイエスは深く苦悩し,さらに真剣に祈り続けた+。汗が血のようになって地面に滴り落ちた。 45  イエスが祈りを終えて立ち上がり,弟子たちの所に行くと,彼らは悲嘆のあまり疲れて眠っていた。 46  イエスは言った。「なぜ眠っているのですか。起き上がり,誘惑に負けないように祈っていなさい+」。 47  イエスがまだ話しているうちに,人々がやって来た。率いていたのは12人の1人,ユダと呼ばれる人で,イエスに近づいて口づけした+ 48  しかしイエスは,「ユダ,口づけして人の子を裏切るのですか」と言った。 49  イエスの周りにいた人たちは成り行きを見て,「主よ,剣で切り掛かりましょうか」と言った。 50  そして,1人が大祭司の奴隷に襲い掛かって右耳を切り落とした+ 51  しかしイエスは,「やめなさい」と言った。それから,奴隷の耳に触れて癒やした。 52  そして,捕らえに来た祭司長と神殿の指揮官と長老たちに言った。「強盗に対するように剣やこん棒を持ってきたのですか+ 53  私が毎日神殿であなた方と一緒にいた時には+,私を捕まえませんでした+。しかし,今はあなた方の時,闇が支配する時です+」。 54  その人たちはイエスを捕らえて引いていき+,大祭司の家の中に連れていった。一方ペテロは,離れて付いていった+ 55  人々が中庭の中央で火をたいて一緒に座った時,ペテロもその中にいた+ 56  召し使いの女性が,ペテロが火に照らされて座っているのを目にして,じっと見つめ,こう言った。「この人も彼と一緒にいました」。 57  しかしペテロはそれを否定して,「私はその人を知らない」と言った+ 58  しばらくして,別の人がペテロを見て言った。「あなたも彼らの仲間だ」。しかしペテロは,「仲間ではない」と言った+ 59  それから1時間ほどたって,別の男性が強く言い張るようになった。「確かにこの人も彼と一緒にいた。実際,ガリラヤ人ではないか!」 60  しかしペテロは言った。「何のことを言っているのか,分からない」。するとすぐ,まだ話しているうちに,おんどりが鳴いた。 61  主イエスが振り向いてペテロを真っすぐに見た。ペテロは,「今日おんどりが鳴く前に,あなたは3度,私を知らないと言います」という主の言葉を思い出した+ 62  そして,外に出て激しく泣いた。 63  さて,イエスの番をしていた人々はイエスを殴って+あざけり始めた+ 64  顔を覆ってから,「預言者なら言ってみろ! おまえを打ったのは誰か」と言うのだった。 65  そしてほかにも冒瀆の言葉を浴びせた。 66  夜が明けると,民の長老たち,祭司長と律法学者たちが集まった+。そして,イエスをサンヘドリン広間に引き出して,言った。 67  「もしあなたがキリストなら,そう言いなさい+」。しかしイエスは言った。「たとえ言っても,あなた方は全く信じないでしょう。 68  また,質問しても,あなた方は答えないでしょう。 69  しかし今後,人の子+は強力な神の右に座ります+」。 70  すると皆が言った。「では,あなたは神の子なのか」。イエスは言った。「その通りです」。 71  その人たちは言った。「どうしてこれ以上,証言が必要でしょうか。私たち自身が彼の口から聞きました+」。

脚注

または,「記念し」。
または,「食卓で横になって」。
または,「食卓で横になって」。

注釈

無酵母パンの祭り,いわゆる過ぎ越し: ニサン14日に祝われた過ぎ越しは,厳密に言えば,ニサン15日から21日まで7日間続いた無酵母パンの祭りとは別のものだった。(レビ 23:5,6。民 28:16,17付録B15参照。)しかし,イエスの時代には,過ぎ越しとこの祭りは密接に結び付いていたため,ニサン14日を含む8日間全体が1つの祭りと見なされた。ヨセフスは「無酵母パンの祝いと呼ばれた8日間の祝い」と述べている。ルカ 22:1-6の出来事は西暦33年のニサン12日に起きた。付録B12参照。

イスカリオテ: 「ケリヨト出身の人」という意味かもしれない。ユダの父シモンもイスカリオテと呼ばれている。(ヨハ 6:71)この語から,シモンとユダはユダにある町ケリヨト・ヘツロンの出身だったと一般に理解されている。(ヨシ 15:25)そうであれば,ユダは12使徒の中で唯一ユダの人である。他の使徒はガリラヤ人だった。

イスカリオテ: マタ 10:4の注釈を参照。

神殿の指揮官: このギリシャ語の直訳は「指揮官」だが,ルカ 22:52は「神殿の」という語を加えて,どんな指揮官かを示している。それで,ここでも意味をはっきりさせるために「神殿」という語を加えている。この役職について述べているのはルカだけ。(使徒 4:1; 5:24,26)この人々は神殿警備隊の隊長たちだった。イエスの逮捕を仕組んで合法的に見せるためにユダとの話し合いに加わったのかもしれない。

銀: お金として使われた銀。マタ 26:15によれば,金額は「銀30枚」。イエスを裏切る代価は,福音書筆者の中でマタイだけが記している。ティルスで鋳造されたシェケル銀貨30枚だったかもしれない。この額は祭司長たちがイエスを軽んじていたことを示しているようだ。律法下では奴隷1人の代価だった。(出 21:32,脚注)同様に,預言者ゼカリヤが神の民の間で預言した報酬を不忠実なイスラエル人に求めた時,民は「銀30枚」を支払い,ゼカリヤにはせいぜい奴隷の価値しかないと見なしていたことを示した。(ゼカ 11:12,13

無酵母パンの祭り,いわゆる過ぎ越し: ニサン14日に祝われた過ぎ越しは,厳密に言えば,ニサン15日から21日まで7日間続いた無酵母パンの祭りとは別のものだった。(レビ 23:5,6。民 28:16,17付録B15参照。)しかし,イエスの時代には,過ぎ越しとこの祭りは密接に結び付いていたため,ニサン14日を含む8日間全体が1つの祭りと見なされた。ヨセフスは「無酵母パンの祝いと呼ばれた8日間の祝い」と述べている。ルカ 22:1-6の出来事は西暦33年のニサン12日に起きた。付録B12参照。

無酵母パンの日になった: ルカ 22:1の注釈にある通り,イエスの時代,過ぎ越し(ニサン14日)と無酵母パンの祭り(ニサン15-21日)は密接に結び付いていたため,ニサン14日を含む8日間全体を「無酵母パンの祭り」と呼ぶこともあった。(付録B15参照。)ここで述べられている日はニサン14日。過ぎ越しの犠牲が捧げられなければならない日と言われているから。(出 12:6,15,17,18。レビ 23:5。申 16:1-77-13節で描かれている事はニサン13日の午後に起きたと思われる。それは晩の過ぎ越しの食事の準備で,その日没からニサン14日が始まった。付録B12参照。

その時刻が来た時: ニサン14日が始まる夕方になった時ということ。付録A7B12参照。

杯を受け取り: ここでの杯はイエスの時代の過ぎ越しの祝いの一環だった。(ルカ 22:15)聖書はエジプトでの過ぎ越しにぶどう酒が使われたとは述べていない。この祭りの時にぶどう酒を使うようエホバが命令したこともない。過ぎ越しを祝う人たちの間でぶどう酒の杯を何度か回す習慣は後に導入されたものと思われる。イエスはこの食事の際にぶどう酒を使うことを非とせず,感謝の祈りをしてから使徒たちと共にぶどう酒を飲んだ。この後,主の晩餐を始めた時には,使徒たちに杯を差し出して飲むように勧めた。(ルカ 22:20

パンを取り……それを割って: 古代近東の一般的なパンは薄くて,酵母が入っていなければ砕けやすかった。イエスがパンを割ったことに深い意味はなく,そのようなパンを分ける普通の方法だった。マタ 14:19の注釈を参照。

表しています: ここでギリシャ語エスティン(字義的には「である」)は,「意味する」,「象徴する」,「表象する」,「表す」という意味。このような意味であることは使徒たちには明らかだった。この時,イエスの完全な体が彼らの目の前にあり,食べようとしていた無酵母パンもそこにあったから。それで,そのパンがイエスの文字通りの体であったはずがない。同じギリシャ語がマタ 12:7で使われていて,多くの聖書で「意味する」と訳されていることにも注目。

パンを取り……それを割って: マタ 26:26の注釈を参照。

表しています: マタ 26:26の注釈を参照。

食事: イエスが主の晩餐を制定する前に弟子たちと食べた過ぎ越しの食事を指すと思われる。こうしてイエスは,当時受け入れられていた習慣に従って過ぎ越しを祝った。イエスは新しいものを導入したりはせず,その祝いを変更することも妨げることもしなかった。こうしてイエスは,生来のユダヤ人として律法を守った。しかし,モーセの律法に従って過ぎ越しが行われた後,イエスは同じ過ぎ越しの日に,目前に迫った自分の死を記念するために新しい晩餐を導入できた。

私の血による新しい契約: イエスがこの場でエレ 31:31にそれとなく触れて「新しい契約」に言及したことを記している福音書筆者はルカだけ。エホバと天に行くクリスチャンとの間の新しい契約はイエスの犠牲によって発効した。(ヘブ 8:10)イエスはここで「契約」と「血」という語を共に使っている。それはモーセがシナイ山で仲介者となってイスラエルとの律法契約を開始させた時にそれらの語を使ったのと同じ。(出 24:8。ヘブ 9:19-21)神とイスラエル国民との律法契約が雄牛とヤギの血によって有効になったように,エホバが「神のイスラエル」(ガラ 6:16)と結ぶ新しい契約はイエスの血によって有効になった。その契約は西暦33年のペンテコステの時に発効した。(ヘブ 9:14,15

……注ぎ出されることになっています: 「私の体を表しています」の部分を除き,19節の中ほど(「あなたたちのために与えられる……」)から20節の最後までは一部の写本にないが,それらの語句は権威ある初期の写本には含まれている。数々の古代写本を使ってギリシャ語の本文をどのように確定するかについては付録A3参照。

でも見なさい。私を裏切る人の手が……私の近くにあります: 21-23節の記述は厳密な時間順ではないと思われる。マタ 26:20-29マル 14:17-25ヨハ 13:21-30と比較すると,ユダはイエスが主の晩さんを制定するより前にその場を離れたことが分かる。「試練に遭っている間もずっと一緒に」いたことでキリストが弟子たちを褒めた時点でユダが既にいなかったことは間違いない。ユダについてそのようには言えなかった。ユダが「王国のための契約」に入れられたはずはない。(ルカ 22:28-30

進んでいきます: 一部の学者によれば,これは婉曲表現で,「死へと進んでいく」ということ。

善行者: ギリシャ語エウエルゲテース(直訳,「善を行っている人」)は,王族や著名人,特に,市民への貢献を認められた人の尊称としてよく使われた。キリストの弟子の間で「教え導く」人は,自分のことを仲間の信者が何か恩義を感じるような「善行者」と考えるべきではない。この世界の支配者たちのようであってはならない。(ルカ 22:26

教え導く人: ここで使われているギリシャ語ヘーゲオマイはヘブ 13:7,17,24にも出ていて,クリスチャン会衆の監督の役割を表現している。

奉仕する: または,「仕える」。ここで使われているギリシャ語動詞はディアコネオーで,関連する名詞ディアコノス(奉仕者,仕える人)は,他の人のためにひたすら謙遜に仕える人を指す。その語は,キリスト(ロマ 15:8),男性も女性も含めキリストの奉仕者(ロマ 16:1。コ一 3:5-7。コロ 1:23),援助奉仕者(フィリ 1:1。テモ一 3:8),また給仕(ヨハ 2:5,9)や政府の役人(ロマ 13:4)を指して使われている。

奉仕する: または,「仕える」。ここで使われているギリシャ語動詞はディアコネオーで,関連する名詞ディアコノス(奉仕者,仕える人)は,他の人のためにひたすら謙遜に仕える人を指す。その語は,キリスト(ロマ 15:8),男性も女性も含めキリストの奉仕者(ロマ 16:1。コ一 3:5-7。コロ 1:23),援助奉仕者(フィリ 1:1。テモ一 3:8),また給仕(ヨハ 2:5,9)や政府の役人(ロマ 13:4)を指して使われている。

給仕している: または,「仕えている」,「奉仕している」。ギリシャ語動詞ディアコネオーはこの節に2回出ている。ルカ 22:26の注釈を参照。

私は……あなたたちと王国のための契約を結び: ここで「契約を結ぶ」と訳されているギリシャ語動詞ディアティテマイは,「契約」という意味の名詞ディアテーケーと関連がある。使徒 3:25,ヘブ 8:10; 10:16で,動詞と名詞の両方が使われていて,「契約を結ぶ(直訳,「を契約する」)」という表現になっている。ここでイエスは2つの契約に言及している。1つは自分と父との契約で,もう1つは自分と天に行くよう選ばれた弟子たちとの契約。その人たちはイエスに加わって王国で共同統治者となる。

食卓に着いて食べたり飲んだりし: 誰かと食事をすることは,関わる人たち同士の友好関係と平和を表した。それで,王の食卓で定期的に食事をする誉れを得た人は特に恵まれた人で,君主との非常に親密な絆を持った。(王一 2:7)イエスはここで,忠実な弟子たちにそのような関係を約束した。(ルカ 22:28-30。ルカ 13:29,啓 19:9も参照。)

農作業に使うシャベル: 恐らく木製で,脱穀した穀物を空中に放り上げて,わらともみ殻が風で吹き払われるようにするのに使われた。

小麦をふるいにかけるように試す: 聖書時代,小麦は脱穀されてわらともみ殻が風で吹き払われた後,ふるいにかけられた。ふるいに入れて激しく揺すり,残るわらともみ殻から穀粒を分けた。(マタ 3:12の注釈を参照。)イエスがこれから受ける試練の結果,弟子たちも試される。イエスはそのことを小麦がふるいにかけられることに例えた。

立ち直った: 直訳,「戻った」。イエスは,人への恐れや自信過剰などが重なってペテロが倒れても,その状態から元に戻ることについて述べているようだ。(格 29:25と比較。)

夜明け前: 直訳,「おんどりが鳴く頃」。これは,ギリシャやローマの区分法による第3夜警時を表す名称。真夜中から午前3時ごろまでを指す。(この節の他の注釈を参照。)恐らくこの時間帯に「おんどりが鳴」いた。(マル 14:72)地中海の東の地域では,おんどりの鳴き声が昔も今も時報のようなものと一般に考えられている。マタ 26:34,マル 14:30,72の注釈を参照。

おんどり: 4福音書全てがおんどりが鳴くことを述べているが,マルコだけはおんどりが2度鳴くことまで記している。(マタ 26:34,74,75。マル 14:30,72。ルカ 22:60,61。ヨハ 13:38; 18:27)ミシュナはイエスの時代にエルサレムでおんどりが飼育されていたことを示しており,聖書の記述を支持している。ここで言うおんどりの鳴き声は,夜が明ける前の非常に早い時間のことだったと思われる。マル 13:35の注釈を参照。

祈っていなさい: または,「祈り続けなさい」。この勧めはルカだけに記されていて,11人の忠実な使徒たちに向けられているようだ。(並行記述のマタ 26:36,37と比較。)2度目の同様の勧めがルカ 22:46に記されていて,その並行記述はマタ 26:41マル 14:38。この2度目の勧めはイエスが庭園で祈っている時にその場にいた3人の弟子にだけ語られた。(マタ 26:37-39。マル 14:33-35)ルカが両方の勧めについて述べている(ルカ 22:40,46)ことは,ルカの福音書が祈りを強調していることを示す1例となっている。祈りやイエスが祈ったことについてルカだけが記しているほかの例は,ルカ 3:21; 5:16; 6:12; 9:18,28; 11:1; 23:46

この杯を私から取り除いてください: 聖書で,「杯」はしばしば比喩的に使われ,ある人に対する神の意志,つまり「与えられた分」を指す。(マタ 20:22の注釈を参照。)イエスは,冒とくと扇動の訴えを受けて死ぬことが神に非難をもたらすことにならないかを非常に心配して,この「杯」を取り除いてくださるよう祈ったのだろう。

この杯を私から取り除いてください: マル 14:36の注釈を参照。

天使: 4人の福音書筆者のうち,天使が現れてイエスを力づけたことを述べているのはルカだけ。

汗が血のようになって: ルカは例えとして表現し,キリストの汗が血のように滴ったことを示していたか,イエスの汗が傷口から血が垂れる様子に似ていると述べていたのかもしれない。一方,イエスの血が皮膚からにじみ出て汗と混じったのかもしれないと考える人もいる。これは,極度の精神的ストレスを受けて起きた症状として報告されている。血管外遊出と呼ばれる状態では,血管は破裂していないのに,血液もしくはその成分が血管壁から染み出す。血汗症として知られる状態では,血液の色素や血液の混じった汗,もしくは血液の混じった体液が分泌されて,「血」の汗が出る。もちろん,これらの説明はイエスの場合に起きた可能性のある事柄にすぎない。

地面に滴り落ちた: 43,44節が出ている初期の写本もあるが,省いているものもある。ほとんどの聖書翻訳にはある。

1人: 並行記述のヨハ 18:10は,大祭司の奴隷に襲い掛かったのがシモン・ペテロであることと奴隷の名前がマルコスであることを示している。

癒やした: 4人の福音書筆者のうち,イエスが大祭司の奴隷を癒やしたことを述べているのはルカだけ。(マタ 26:51。マル 14:47。ヨハ 18:10

時: ギリシャ語ホーラはここで比喩的に使われて,比較的短い時間を指している。

闇が支配する時: または,「闇の権威」。比喩的な闇にいる者たちが持つ力のこと。(コロ 1:13と比較。)使徒 26:18で,闇は「サタンの権威」と一緒に挙げられている。サタンは自分の権威を行使して人間に影響を与え,イエスの処刑につながる闇の行いをさせた。例えば,ルカ 22:3は,「イスカリオテと呼ばれるユダにサタンが入り込んだ」と述べている。そのユダがイエスを裏切った。(創 3:15。ヨハ 13:27-30

おんどりが……鳴いた: 4福音書全てがこのことを述べているが,マルコだけはおんどりが2度目に鳴いたことまで記している。(マタ 26:34,74,75。マル 14:30。ルカ 22:34,60,61。ヨハ 13:38; 18:27)ミシュナはイエスの時代にエルサレムでおんどりが飼育されていたことを示しており,聖書の記述を支持している。ここで言うおんどりの鳴き声は夜明け前のことだったと思われる。マル 13:35の注釈を参照。

おんどりが鳴いた: マル 14:72の注釈を参照。

預言者なら……言ってみろ。おまえを打ったのは誰か: 予言してみろではなく,誰が打ったのかを神の啓示によって当ててみろということ。並行記述のマル 14:65ルカ 22:64によれば,迫害者たちはイエスの顔を覆っていた。誰が打ったのかを当ててみろというのがあざけりだったことが分かる。

預言者なら言ってみろ!: 予言してみろではなく,神の啓示によって当ててみろということ。文脈によれば,迫害者たちはイエスの顔を覆っていた。そして,目隠しされたイエスに,誰が打ったのかを当ててみろと挑んでいた。マタ 26:68の注釈を参照。

最高法廷: サンヘドリン全体。エルサレムにあり,大祭司および70人の長老や律法学者たちで成る司法機関。ユダヤ人はその裁定を最終的なものと見なした。用語集の「サンヘドリン」参照。

長老たち: または,「長老会(団)」。ここで使われているプレスビュテリオンというギリシャ語はプレスビュテロス(直訳,「年長者」)という語と関連があり,その語は聖書で主に,国や共同体で権威や責任のある立場に就いている人を指す。年上の人を表すこともあるが(ルカ 15:25使徒 2:17がその例),年配者に限られてはいない。ここの「長老たち」という表現はエルサレムにあったユダヤ人の高等法廷つまりサンヘドリンを指すと思われる。サンヘドリンは祭司長と律法学者と長老たちで構成されていた。これら3つのグループはよく一緒に出てくる。(マタ 16:21; 27:41。マル 8:31; 11:27; 14:43,53; 15:1。ルカ 9:22; 20:1用語集とこの節のサンヘドリン広間に関する注釈を参照。

サンヘドリン広間: または,「サンヘドリン」。サンヘドリンはエルサレムにあったユダヤ人の高等法廷。「サンヘドリン広間」または「サンヘドリン」と訳されるギリシャ語(シュネドリオン)は字義的には,「共に座る」という意味。会合や集会を指す一般的な言葉だったが,イスラエルでは宗教上の司法機関つまり法廷も指した。このギリシャ語は法廷を構成する人々もしくは法廷のある建物や場所を指せる。マタ 5:22の注釈用語集を参照。サンヘドリン広間があったと考えられる場所について,付録B12も参照。

人の子: または,「人間の子」。原語で,この表現は福音書に約80回出ている。イエスは自分を指してこの表現を用いた。自分が女性から生まれた紛れもない人間であること,また人類を罪と死から救う力を持つ,アダムにちょうど対応する人間であることを強調したものと思われる。(ロマ 5:12,14,15)この同じ表現は,イエスがメシアすなわちキリストであることも明らかにした。(ダニ 7:13,14用語集参照。

強力な方の右: 直訳,「力の右」。統治者の右にいるとは,統治者に次ぐ重要な地位にあることを意味した。(詩 110:1。使徒 7:55,56)この文脈で「力」に当たるギリシャ語は神自身を指すと理解でき,「力がある方」や「強力な方」と訳せる。「強力な方の右」に当たるギリシャ語表現は並行記述のルカ 22:69にも出ているが,そこでは「神」に当たる語が付いていて,「強力な神の右」と訳されている。「力の右」という語句は,イエスが強力な方である神の右にいて,力や権力を与えられることも暗示しているのかもしれない。

人の子: マタ 8:20の注釈を参照。

強力な神の右に: または,「神の力の右に」。統治者の右にいるとは,統治者に次ぐ重要な地位にあることを意味した。(詩 110:1。使徒 7:55,56)「強力な……右」に当たるギリシャ語はマタ 26:64マル 14:62にも出ている。人の子が「強力な神の右に」座ることは,イエスが力や権力を与えられることも暗示している。(マル 14:62マタ 26:64の注釈を参照。

その通りです: 直訳,「あなた自身が言っています」。肯定を意味する慣用表現。

メディア

階上の部屋
階上の部屋

イスラエルには階上の部屋がある家もあった。その部屋には,屋内のはしごや木の階段あるいは屋外の石の階段かはしごで行けた。ここに描かれているような大きな階上の部屋でイエスは最後の過ぎ越しを弟子たちと祝い,主の晩餐という記念の式典を制定した。(ルカ 22:12,19,20)西暦33年のペンテコステの日,約120人の弟子たちが恐らくエルサレム内のある階上の部屋にいた時に,神の聖なる力がその弟子たちに注がれた。(使徒 1:15; 2:1-4

サンヘドリン
サンヘドリン

71人の成員が大サンヘドリンと呼ばれるユダヤ人の高等法廷を構成していた。それはエルサレムにあった。(用語集の「サンヘドリン」参照。)ミシュナによれば,座席は半円形に並び,3段になっていた。2人の書記がいて判決を記録した。ここに示されている建物の様子は一部,エルサレムで発見された1世紀の会議場とも考えられている遺跡に基づいている。付録B12,「エルサレムとその周辺」の地図を参照。

1. 大祭司

2. サンヘドリンの成員

3. 被告人

4. 事務官